しまった…よ。
地面にぶつかった時に、大きな音が出てしまったのだ。
階段の裏にいた誰かに…、
気付かれてしまった!
一体、僕は、
誰に見つかったのだ。
僕は声がした方を向いた。
階段の上に、声の主が、いた。
「そん…な。
カニだ…よ」
カニ。
丈夫な体と、強靭なハサミを持つ甲殻類。
川辺にいるのを見たことがある。
水草を鋭く、ハサミで刈っていた。
素早く泳ぐ魚を、華麗な横歩きと、ハサミさばきで、捕まえていた。
そのハサミの標的となるのは、
バッタである僕も、
例外ではない!
「おう!
俺はカニさ!
水陸、どちらでも生活出来る、アカテガニ。
運がなかったな、ショウリョウバッタ。
この堤防に入り込んで。
俺は悠久の時を、ここで過ごしてきた。
生まれて5年ずっと、
コンクリートの地面が脚になじむくらい、この堤防で生きてきた。
俺のこの堤防における動きは、並みのアカテガニの比ではないのさ。
…ショウリョウバッタ。
お前は、その俺の襲撃から、
逃れられるかな!」
アカテガニはそう言うと、
横歩きで、僕に向かってきた。