ヤ、ヤバいよ。
ラーナがクロヤマアリに遭遇してしまった。
止めるのが間に合わなかったのだ。
生物の気配があった地点まで進ませてしまった。
クロヤマアリは…荒くれ者だ。
自分より体の大きい相手を平気で襲う種族なのだ。
そんな凶暴なクロヤマアリの背中を…、
ラーナは踏んでしまった。
くっ…。
もう少し早く、ラーナに危険を伝えることが出来れば…。
ガサ。
草を揺らし、シイが僕の右横にやってくる。
「セ、セイさん。
一体、何が…」
不安そうな顔で僕に聞いた。
僕は右の前脚をラーナとクロヤマアリがいる方に上げ、
「ラーナさんが…クロヤマアリに遭遇してしまった」
シイに伝えた。
シイの顔が驚きの表情に変わる。
そして、草の間から先を見つめ、
「そんな…。
ラーナ…」
呆然とつぶやいた。
クロヤマアリが凄い形相でラーナに1歩近付く。
ラーナが体を震わせ、後ずさりする。
「す、すいません。
悪気はなかったんです。
草で地面がよく見えなくて…」
涙目で言ったラーナに、クロヤマアリがさらに1歩近付く。
「マジ背中が痛かったんだよ!
高い所から降ってきやがって。
巣に連れ帰るぞ、ワレェ!」
言って、クロヤマアリがどんどんとラーナに近付いた。
い、いけない。
ラーナがクロヤマアリに襲われてしまう。
タッ!
僕は跳び、
ラーナとクロヤマアリの近くに着地した。
そして体をクロヤマアリに向け、
「クロヤマアリさん、お願いします!
どうか見逃して下さい!」
大声でお願いした。
クロヤマアリがラーナに近付くのを止め、体を僕の方に向ける。
「なんだお前!
こいつの仲間か?
…見逃して欲しい?
嫌だね。
背中を思い切り踏まれたんだ。
かなり痛かった。
アゴでかまないと、気が済まないんだよ!
どうにかしたければ…、
俺を倒すことだな!」
クロヤマアリが言い、
ザッ。
僕のいる方に脚を踏み出した。