クロヤマアリが凄い形相でにらみながら、僕に近付いてくる…。
ク、クロヤマアリと戦闘…?
ヤ…ヤバい。
圧倒的にやられそうだよ。
かなり好戦的な種族なのだ。
故郷の草地にいた時、よく闘っている姿を見た。
別の種族のアリや、カマキリなどと、しょっちゅう闘っていた。
アゴを巧みに振るい、勇猛に闘っていた。
クロヤマアリは5mmで、僕が3cmなので、体格は僕の方が良いが、
自分より大きな相手を運べる強力なアゴをクロヤマアリは持っているのだ。
その差はないに等しい。
クロヤマアリとの戦闘、なんとか避けたい…よ。
彼の気を静められるよう…話をしてみよう。
「クロヤマアリさん、どうか落ち着いて下さい。
見て下さいよ、あちらを」
言って僕は左の茂みを右前脚で指した。
クロヤマアリが脚を止め、不機嫌そうに僕が指した方を向いた。
クロヤマアリが向いたのを見て僕は話を続ける。
「綺麗な花がたくさん咲いています。
あの黄色の花はタンポポ、薄紫の花はスミレでしょうか。
それらの花から良い香りがしてきませんか?
この香りは、花の蜜。
かなり甘くておいしそうです。
クロヤマアリさんは、確か、花の蜜が好きですよね。
体を休めに、花の上に飲みに行かれてはどうでしょうか?」
僕はクロヤマアリに花の蜜をすすめた。
故郷の草地にいた時、クロヤマアリが花の上に乗って蜜を飲んでいるのをよく見かけた。
クロヤマアリは花の蜜が結構好きなのだ。
もしかしたら僕の話にのって、蜜を飲みに行ってくれるかもしれない。
そうしたら、しめたものだ。
戦闘を避けられる。
クロヤマアリがゆっくりと僕の方に向き直った。
そして、口を開く。
「背中が痛かったと言っただろ、ショウリョウバッタ。
今はとても、そんな気分にはなれんよ。
あの花の蜜は…、
後で飲もうかな。
お前らをコテンパンにした後で、
ゆっくりとね」