クロヤマアリが僕の方に歩き出した。
彼の気を静めることに…失敗してしまったよ。
クロヤマアリとの闘い…、
避けられない…ようだ。
「セ、セイさん!
すいません、私…」
右前方から声がかかる。
声がした方を見ると、
ラーナが涙目で体を震わせながら、こちらを見つめていた。
ラーナ…、
クロヤマアリの背中を踏んでしまったことに、
責任を感じているのだろう。
申し訳なさそうな顔を、僕に向けている。
着地した場所に偶然クロヤマアリがいるなんて…、
かなり運が悪かった…よ。
たった10mの距離を移動するだけだったのだ。
それだけで薬草に辿り着けた。
それなのに、
そのわずかな移動の間に、
5mmの大きさの小柄なラーナが、
同じくらいの大きさのクロヤマアリに接触するなんて…。
クロヤマアリが突然止まって、ラーナの方を向く。
そして、
「やい、ハラヒシバッタ!
このショウリョウバッタをたたんだ後は、
お前だからな!」
大声でおどした。
その剣幕にラーナがビクッと体を震わせ、
「え~ん!」
泣いた。
クロヤマアリが再びこちらを向き、歩き出す。
くっ…、クロヤマアリ。
ラーナはちゃんと謝ったのに。
クロヤマアリは僕と比べると小柄だが、
ハラヒシバッタであるラーナとは大きさに差がない。
攻撃されたら…、
ただではすまないよ。
僕は焦り、ラーナの方に1歩脚を踏み出した。
「ラーナさん!
僕がクロヤマアリと闘っている間に、
逃げるんだ!」