僕の叫びにラーナが、
「そ、そんな…。
セイさんを1匹にして逃げるなんて、
そんなこと…出来ないよ」
つぶやき、うつむいた。
「ラ…ラーナさん…。
い…いけないよ!
体の小さな君がここにいては…!
もしクロヤマアリの攻撃を食らったら…。
僕のことは構わず…」
ザッ!
クロヤマアリが右前脚で近くの草を踏んで、僕の言葉をさえぎった。
「ちっ、ショウリョウバッタ。
余計なことを言いやがって。
ハラヒシバッタが遠くに逃げないうちに、
さっさとお前を倒してくれるわ!」
言って、先程よりも素早く僕に向かって歩き出した。
く、来るよ、クロヤマアリが!
ど…どうしよう。
相手は戦闘経験の多そうなクロヤマアリ…。
それに対し、僕はおとなしく生きてきたショウリョウバッタ。
まともに闘ったら、やられてしまう。
い…いけないよ、それでは。
ラーナがこの場に残っているのだ。
僕がやられたら、ラーナがクロヤマアリに襲われてしまうのだ。
なんとかして、抗わないと。
僕は迫ってくるクロヤマアリをじっと見つめた。
前脚、触角、目に視線が移り、
最後にアゴを見た。
…よし。
クロヤマアリのアゴの動きに神経を集中し、
かまれないよう気を付けて闘っていこう。
アゴはクロヤマアリの武器。
自分より大きな相手も運べる、強力なものだ。
かまれたら、かなりのダメージを負う。
数度かまれたら、戦闘不能だ。
そうならないよう、アゴの攻撃を食らわないようにするぞ。
そうすれば、勝機があるように思える。
体格差があるため、アゴ以外の攻撃は、
耐えられるように思えるのだ。
よ…し、アゴに注意して抗って、
クロヤマアリに引いてもらうぞ!