「良かった。
ショウリョウバッタさんが、私達の村に来てくれて」
「ああ。
俺達の力だけでは、どうすれば良いのか分からなかった。
ショウリョウバッタさんが、近くを通りかかってくれて良かったよ」
シイと、オスのハラヒシバッタが顔をほころばせて言った。
「いえ、そんな…」
僕は照れくさそうに頭をかいた。
「あれ、そういえば…。
ショウリョウバッタさんは、
ここら辺では見かけないショウリョウバッタさんのようだね。
最近、この近くに引っ越してきたのかい?」
オスのハラヒシバッタが僕の顔をじっと見て聞いた。
「いえ…。
実は、僕なんですが、
ここよりずっと、上流の方に住んでいたショウリョウバッタなんです。
だけど、昨夜、草地で休んでいた時、
突風で飛ばされ、川に落ち、ここまで流されてしまったんです。
今はその草地へ戻る途中です」
僕はハラヒシバッタのオスに答えた。
「上流の方から!
川に流されてきたのか!
それは大変な目にあった。
波もあるし、凶暴な川魚もいるんだ。
よく川から上がれたものだ。
君は根性のあるショウリョウバッタだ。
ラーナを助ける時も、頑張って草をかじってくれた。
ショウリョウバッタさん。
お礼と言っては何ですが、今日はこの村で休んでいって下さい。
もうすぐ日が暮れます。
夜の林に1匹でいては危ない。
この村の中なら、落ち着けると思います。
大勢の屈強なハラヒシバッタが村を見回り、守っていますので」
「村長のゲンの言う通りです。
ゆっくりしていって下さい」
ハラヒシバッタのオス―村長のゲンの言葉の後、続けてラーナが言った。
僕はうなずき、口を開く。
「ありがたいです。
お言葉に甘えて、休ませてもらいます」