「は…はい、
昨日、この村にやってきた、
ショウリョウバッタのセイです」
僕は目の前の体格のがっしりしたオスのハラヒシバッタに言葉を返した。
「自分はバレックだ。
感謝するよ、セイ君、
ラーナを助けてくれて。
村長から聞いた話だと、草を食いちぎり、
閉じ込められたラーナがいる地点までの道を切り開いてくれたようで…」
「僕のアゴが役に立って良かったです」
僕は照れて、頭をかきながら言った。
「君がこの村の近くを通りかかってくれて良かった。
自分がなんとか出来たら良かったんだが、
情けないことに一昨日の強風で吹き飛ばされてケガをしてしまって…。
その時は村の端まで薬草を食べに行っていたんだ」
彼が申し訳なさそうに僕に言った。
「一昨日の風は強かったですね。
僕もつかまっていた葉ごと、空に吹き飛ばされました。
それで川に落ちて、河口のこの辺りまで流されてしまって…」
「今、セイ君は元いた草地に戻る途中なんだね。
結構、距離があるという話だけど…」
僕は体を上流の方に向けた。
「川岸から見える、橋の手前辺りです」
バレックがそばに生えていた背の高い草に跳び乗って、
上流の方を見た。
「…あの橋の手前か。
随分な距離があるじゃないか。
あまりに遠すぎて橋がかすんでいる。
辿り着くまでに、大分、日にちがかかりそうだ。
かなり困難な道のりに思える。
危ないから出発せずに、この村にとどまった方が良いんじゃないかな?」